なぜプロ野球のチケットは高騰するのか?“推し球団”の価値と球場経営の最前線
なぜ今「チケット価格」が話題なのか
プロ野球の観戦チケットが、今、かつてないほど注目を集めています。
特に一部球団のS席やプレミアムシートでは、1万円を超える価格設定も珍しくなくなりました。
SNSでは「高くて手が出ない」「なのに即完売ってどういうこと?」といった声が日々飛び交い、チケット入手をめぐるファンの熱量と困惑が同居する状況が続いています。
それでも、球場には連日多くの観客が訪れています。
実際、NPB全体の観客動員数は年々増加傾向にあり、2024年シーズンは2,600万人超(12球団合計)と、コロナ禍前の水準を大きく超えるまでに回復しました。
「そこまでして現地で観たいのか?」「そもそもなぜチケットは高騰しているのか?」
この疑問をひもとくと、プロ野球というスポーツの枠を超えた“エンタメ産業化”と、“推し球団”という新たな価値観の広がりが見えてきます。
今回は、そんなプロ野球ビジネスの現在地を、チケット価格の変化を軸に読み解いていきます。
【1】チケット価格はどのように決まるのか
まず基本的な仕組みとして、チケット価格は「需要と供給」によって決まります。
週末開催、人気カード、好天予報──こうした条件がそろえば、当然ながらチケットは売れやすくなり、価格も高めに設定されがちです。
最近ではさらに「ダイナミックプライシング」という仕組みを導入する球団も増えてきました。
これは、航空券やホテルと同様、需要の高さに応じて価格が変動するシステムで、既に半数以上の球団が導入しています。
たとえば平日の内野席が4,000円でも、土曜の阪神戦になれば8,000円近くになる、といったことも起きます。
このように、単なる「席のグレード」だけでなく、「いつ」「どこで」「誰と」対戦するかによって価格が変わる──まさにチケットが“資源”として扱われる時代になっているのです。
【2】価格上昇の裏にある「価値の変化」
単に高くなっただけでは、ファンはチケットを買い続けないはずです。
それでも完売が続く理由には、「球場体験そのものの価値」が変わってきた背景があります。
近年の球場では、観戦そのものだけでなく、グルメ・グッズ・演出など“エンタメ要素”が強化され、「ただの試合」ではない「非日常の体験」として観戦が設計されています。
たとえば横浜DeNAベイスターズの「YOKOHAMA STAR☆NIGHT」や、ソフトバンクの「鷹祭」は、その象徴的な取り組みでしょう。
応援ユニフォームの無料配布や、ド派手な演出、イベント限定メニューなど、観戦が“お祭り”になっているのです。
また、アイドルや声優ファンの間で広まった「推し活」の文化が、野球ファンにも浸透してきました。
応援している選手のグッズを揃え、現地でその活躍を見届ける──これはまさに、「推し球団への投資」そのものです。
推しの活躍を見届ける一瞬のために、何千円、何万円を払うことにためらいがない。
価格ではなく“価値”で判断されるようになったのが、現代のチケット価格を支える原動力と言えるでしょう。