人的補償制度は廃止すべきか──「つらい制度」が残り続ける理由
選手にとってつらい制度と見られがちですが、なぜ今も残り続けているのでしょうか。感情論ではなく、制度としての背景を整理します。
FA移籍のニュースが出るたびに、必ず議論になるのが「人的補償」です。
移籍する選手にとってはキャリアの前進であり、球団にとっても戦力強化の一手。
しかしその裏側で、人的補償となった選手が突然チームを離れることになり、複雑な空気が生まれる場面も少なくありません。
近年は、FA移籍が決まった選手が人的補償となった選手に謝りにいく、というようなシーンが報じられることもありました。
ファンとしても胸が痛む光景であり、「このルールは選手にとって苦痛なのではないか」「時代に合っていないのではないか」という声が出るのも自然な流れでしょう。
では人的補償制度は、廃止すべきなのでしょうか。
結論から言えば、人的補償には明確な課題がある一方で、現状では代替補強手段が乏しいという現実があり、簡単には無くせない制度になっています。
感情論だけでなく、制度としての背景を整理する必要があります。
なぜ人的補償は「つらい制度」に見えるのか
人的補償の最大の問題は、対象となった選手が基本的に自分の意思で選べない点にあります。
FA移籍が決まった瞬間、守るべき選手と外す選手がリストで分けられ、そこから補償として選ばれた選手は、突然チームを離れることになる。
本人がどれだけ準備していても、ある日を境に環境が一変します。
さらに厄介なのは、人的補償が「移籍する側の選手の責任」のように見えてしまうことです。
実際には制度上のルールであり、移籍する選手が誰かを指名しているわけではありません。
それでも、移籍する側が「申し訳ない」という空気になり、補償となった側は「謝られる側」になる。
この構図自体が、プロスポーツとして健全な形なのかは考えさせられます。
こうした背景から、人的補償は“選手の人生に負担をかける制度”として批判されやすいのです。
それでも廃止できない理由:流出球団の補強が追いつかない
一方で、人的補償が残り続けているのは「獲られた球団にとって貴重な補強手段」だからです。
FAで主力級の選手が抜けた場合、チームは戦力を埋めなければいけません。
しかしNPBでは、その代替手段が驚くほど少ないのが現実です。
まず前提として、FA移籍が決まる時期にはバラつきがあります。
大体は11月末〜1月上旬にかけて決着しますが、すぐ決まるケースもあれば、年をまたいで長引くケースもある。
球団側からすると「残留か移籍か分からない状態」が続くことになります。
この期間に、代替補強へ表立って動くのは簡単ではありません。
もし残留交渉をしている最中に、球団が別の補強へ積極的に動いていることが伝われば、選手側に「もう出ていく前提なのか」「信用されていないのか」という不信感を与えかねないからです。
交渉が繊細な局面であればあるほど、補強の動きは慎重にならざるを得ません。
結果として、FA移籍が確定してから代替補強に動くことになります。
しかしその時点では、他球団はすでにオフの補強を進めている。
流出球団だけが“動き出しが遅くなる”構造になりやすいのです。
人的補償は、そうした不利を少しでも緩和する仕組みとして機能してきました。
「外国人を獲ればいい」では解決しない
人的補償を不要にする案として、「だったら外国人を補強すればいい」という意見も出ます。
ただ、これも現実的には簡単ではありません。
NPBは1軍登録できる外国人枠に上限があります。
主力選手がFAで抜けたからといって、外国人を無制限に増やして埋めればいい、という世界ではない。
特に投打のバランスや起用枠を考えると、外国人補強は“足りないところを全部埋める魔法”にはなりません。
さらに言えば、外国人補強にも獲得競争があり、こちらも出だしが遅れればその分欲しい選手が市場に残っていない可能性が高くなります。
補強の確実性という点でも、人的補償は貴重な選択肢として残ってきました。
ドラフト・戦力外市場後に主力が抜ける「補強の空白」
FA流出が重くなる理由は、タイミングにもあります。
ドラフト会議は10月に終わっており、そこから先は各球団が翌年に向けて編成を固めていく段階に入ります。
戦力外市場も進み、自由契約選手の中で「めぼしい選手」は早い段階で決まっていきます。
つまり、FAで主力が移籍する頃には、補強の選択肢がかなり狭くなっているのです。
この状態で主力級が抜けるのに、代替補強手段が乏しい。
だからこそ人的補償制度が必要になってしまう、という構図があります。
人的補償は理想的な制度ではなくても、「現実として戦力を埋める手段がない」ことが制度を残している最大の理由でしょう。
廃止するなら代替案が必要だが、どれも簡単ではない
では、人的補償を廃止するならどうすべきでしょうか。