NPBのFA制度は「穴埋め補強」になりにくい──上積み獲得と主力流出の構造
レギュラーシーズンがもうすぐ終わり、これから各球団はオフシーズンへ入っていきます。
ドラフトでどの選手を指名するのか。外国人選手をどう補強するのか。他球団を退団した選手の獲得に動くのか。そして自球団の戦力をどのように整理していくのか。
シーズン中とはまた違った形で、来季のチーム作りを考える面白い時期です。
その中で毎年注目される補強手段の一つが、FAでしょう。
有力選手が市場に出れば、「この選手を獲得できればチームの弱点を埋められる」「このポジションをFAで補強してほしい」といった声も多くなります。
ただ、実際に球団の編成という視点から考えてみると、FAはドラフトや外国人補強と比べて、かなり計算しにくい補強手段です。
誰がFA権を行使するのか分からない。
FA市場が本格的に動き始める頃には、ドラフトはすでに終わっている。
外国人選手や戦力外選手についても、その頃には調査や交渉がかなり進んでいます。
そのため球団側は、「このポジションはFAで補強しよう」と最初から計算して編成を進めることが難しいのです。
むしろFA選手を獲得する頃には、必要な戦力を別の方法ですでに確保しており、FAは「穴埋め」ではなく「上積み」になりやすい。
一方で、自球団の主力選手がFAで流出すると分かった頃には、その穴を埋めるための大きな補強機会はすでにかなり終わっています。
こう考えていくと、現在のNPBでFA移籍がなかなか活性化しない背景には、人的補償やFA権取得までの年数だけではなく、FA市場が開く時期そのものも関係しているのではないでしょうか。
今回は、これから本格化するオフシーズンの補強を考えながら、なぜNPBのFAは「穴埋め補強」として使いにくいのか。そして、それがFA制度全体の活性化や人的補償の議論とどうつながっているのかを考えてみたいと思います。
※無料読者登録すると、DeNAの戦力分析・ドラフト・球団運営などの新着記事をメールで受け取れます。
FA市場が開く前に、球団の補強は始まっている
まずNPBのオフシーズンを考えてみます。
シーズン終盤になると戦力外通告期間が始まり、球団は来季に向けた戦力整理を本格化させます。
誰と来季の契約を結ばないのか。
どこに支配下枠が空くのか。
どのポジションを補強しなければならないのか。
他球団を戦力外となった選手についても調査を始め、外国人選手についても水面下では交渉を進めているでしょう。
そして10月にはドラフト会議があります。
ドラフトは球団にとって、複数の支配下選手を一度に獲得できる非常に大きな補強機会です。
先発投手が足りないなら即戦力投手を指名する。
将来の正捕手候補が欲しいなら捕手を獲得する。
センターを守れる外野手が必要なら、その候補を上位で指名する。
球団はその時点でのチーム状況を分析しながら、限られた指名権をどこに使うのか判断します。
ところが、このドラフト会議の段階では、まだFA市場に誰が出てくるのか正式には分かりません。
FA権を持つ選手が権利を行使するかどうかを表明するのは、日本シリーズ終了後です。
つまり球団は、「今年FA市場に誰が出てくるのか分からない状態で、先にドラフトを終えなければならない」ことになります。
「FAで獲ればいい」とは考えにくい
例えば、ある球団が来季に向けて先発投手を一人補強したいと考えていたとします。
FA資格を持つ有力な先発投手がいたとしても、その選手がFA宣言する保証はありません。
権利を行使せず残留するかもしれませんし、FA宣言しても元の球団に残る可能性もあります。
仮に移籍を希望したとしても、自球団が獲得競争に勝てるとは限りません。
それなら球団としては、
「FAで獲れるかもしれないから、ドラフトでは先発投手を取らなくてもいい」
とはなかなか判断できないでしょう。
FA選手を獲得できなかった結果、必要なポジションがそのまま穴になってしまっては困るからです。
そこでドラフトで即戦力投手を指名したり、新外国人投手の獲得を進めたり、他球団を戦力外になった選手を調査したりする。
つまり、FA選手を獲得できなくても来季を戦える編成を先に作っておく必要があります。
その後でFA市場に魅力的な選手が出てきたら、獲得を検討する。
こう考えるとFAは、「この選手がいなければ困る」という穴埋め補強よりも、「この選手が加わればさらに強くなる」という上積み補強になりやすいのです。
FAで獲得する選手が「上積み」になりやすい一方で、では自球団から主力がFAで流出した場合はどうなるのでしょうか。
実は現在の制度では、こちらの方が編成上はさらに深刻な問題を抱えています。
ここからは、FAで主力を失う球団がなぜ代役を用意しづらいのか、そしてそれが人的補償の撤廃を簡単にできない理由にもつながっている点について考えていきます。