「ピッチコム導入」は何を変えるのか──その先に見えるNPBの「ピッチクロック」への準備
来季から、日本のプロ野球でも試合中の光景が少し変わることになりそうです。
NPBがサイン伝達機器「ピッチコム」を2027年シーズンから導入することを決め、すでに12球団へ通達したと報じられました。
使用は義務ではなく任意となる見込みですが、今季途中からは二軍戦ですでに試験運用が行われており、来春のキャンプ、オープン戦でも試行される予定です。
そして今回の報道には、もう一つ気になる情報がありました。
投球間隔に時間制限を設ける「ピッチクロック」についても、導入時期こそ未定ながら、将来的にNPBで導入する方針が決まっているということです。
一見すると別々の制度にも思える「ピッチコム」と「ピッチクロック」。
しかし、この二つは決して無関係ではありません。
むしろ今回のピッチコム導入は、将来的にNPBがピッチクロックを導入するための“準備”という意味も持っているのではないでしょうか。
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そもそも「ピッチコム」とは何なのか
ピッチコムは、投手と捕手などが電子機器を使ってサインを伝達するシステムです。
MLBでは2022年から公式戦で使用が認められました。
従来であれば捕手が指で球種などのサインを出し、投手がそれを確認して投球するのが一般的でした。
しかしピッチコムでは、捕手が腕などに装着した送信機を操作することで、その情報が投手の受信機へ音声で伝えられます。
MLBが導入した際には、サイン盗み対策に加え、試合のテンポ改善も目的の一つとされていました。
今回NPBが導入する理由としても、「投手と捕手のサイン伝達を円滑にし、内野手との連係を高めること」が挙げられています。
つまり単純に、
「指で出していたサインを機械に置き換える」
だけではありません。
投手、捕手、野手の間で必要な情報を、より短時間かつ確実に共有できるようにする仕組みと考えた方が近いでしょう。
サイン交換にかかる「時間」が変わる
そして筆者が特に注目したいのは、サイン交換に必要な時間です。
従来のサイン交換では、
捕手がサインを出す
投手が確認する
気に入らなければ首を振る
捕手が別のサインを出す
というやり取りが必要になります。
走者が二塁にいる場面ではサイン盗みを警戒して複雑なサインに変えることもあり、さらに時間がかかることもあります。
もちろん、この時間も野球における駆け引きの一部です。
ただ、将来的にピッチクロックを導入するのであれば話は変わってきます。
限られた時間の中で投球しなければならない以上、その前段階となるサイン交換にもスピードが求められるからです。
そこでピッチコムが重要になります。
サイン伝達そのものを効率化しておけば、投手と捕手が時間制限の中で配球を決める負担を軽減できます。
つまり、
ピッチコムによってサイン交換を高速化する
選手がその環境に慣れる
その上でピッチクロックを導入する
という順番であれば、制度変更による現場の混乱を小さくできます。
今回の導入には、そうした段階的な準備という意味もあるように思えます。
WBCですでに経験した「時間に追われる野球」
実際、日本の選手にとってピッチクロックは、もう未知の制度ではありません。
2026年3月のWBCでもピッチクロックが採用されました。
大会では、走者なしの場合は15秒、走者ありでは18秒以内に投手が投球動作へ入る必要があり、打者にも残り8秒までに打撃態勢を整えるルールが設けられました。
日本代表の投手も実際に違反を取られる場面がありました。
普段からNPBでプレーしている選手にとっては、それだけ従来とは違ったリズムで投げなければならなかったということでしょう。
投手はただボールを受け取って投げているわけではありません。
次の打者について考えたり、捕手のサインを確認したり、走者を警戒したり、呼吸を整えたりする必要があります。
ピンチになれば、一度マウンドを外して気持ちを落ち着かせたいこともあります。
ピッチクロックが導入されるということは、こうした「間」にも制限が加わるということです。
だからこそ、サイン交換だけでも短くできるピッチコムには大きな意味があります。
ここから先では、ピッチクロックが実際に導入された場合、NPBの野球がどう変わるのかをもう少し掘り下げます。
単に「試合時間が短くなる」というだけではありません。
投手の間の取り方、捕手の配球、走者との駆け引きまで変わる可能性があります。そして今回、ピッチコムをまず「任意」で導入することにも、将来を見据えた意味があるように思います。