「なぜ今日も戸柱なのか」に答える──松尾と古市を育てるために必要な“第3の捕手”
最近、DeNAのスタメンを見ると、捕手の起用に少し変化が出てきています。
シーズン中盤までは松尾汐恩がスタメンマスクを被る試合が多く、1番手捕手として経験を積ませていく意図が強く感じられました。
しかし最近は、戸柱恭孝や古市尊がスタメンマスクを被る試合も増えています。
そうなると、ファンから聞かれるようになるのが、
「なぜ今日も戸柱なのか」
「松尾を我慢して使った方がいいのではないか」
「それなら若い古市を使えばいいのではないか」
という声です。
ただ、筆者は現在の捕手運用について、むしろかなり健全なのではないかと見ています。
なぜなら、松尾を育てることと、松尾を毎試合スタメンで使うことは、必ずしも同じではないからです。
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「1番手として育てる」と「毎日出す」は違う
もちろん、DeNAが松尾を1番手捕手として期待していることに大きな疑いはないでしょう。
だからこそ、今季はこれまで以上に多くの試合でスタメンマスクを任せ、経験を積ませてきました。
ただ、「若手なのだから、とにかく毎日試合に出せばいい」というほど、捕手育成は単純ではないと思います。
どんな選手にも好不調があります。
打撃の状態が落ちることもあれば、疲労が溜まることもある。
まして捕手の場合、やることは打って守るだけではありません。
投手とコミュニケーションを取り、相手打者について準備し、試合中には投手の状態を見ながらゲームを組み立てる。
一軍でスタメンマスクを被るだけでも、かなり大きな負担がかかるポジションです。
だからこそ、状態が落ちたときには一度出場を減らす。
その間に調整し、状態が上向いてきたら再び起用を増やしていく。
その繰り返しもまた、育成なのではないでしょうか。
将来の1番手捕手だからといって、不調でも疲れていても全試合でスタメンマスクを被らせることが、必ずしも本人の成長につながるとは限りません。
では、なぜ松尾を休ませる日に戸柱なのか
そこで次に出てくるのが、
「松尾を休ませるなら古市を使えばいい」
という疑問です。
もちろん、古市にも試合に出てもらう必要があります。
今後を考えれば、松尾だけではなく古市にも一軍での経験を積ませていくことは重要です。
実際、松尾のスタメンが減っているのであれば、その分をすべて戸柱に任せるのではなく、古市の出場機会も作っていくべきでしょう。
ただし、ここでも「若いから出せばいい」と単純に考えるべきではないと思います。
捕手には、捕手なりの準備が必要だからです。
例えば、
「○日はこの投手と組んでもらう」
と事前に伝えられていれば、その投手について調べ、相手打線について確認し、その試合に向けた準備ができます。
一方で、
「今日は松尾を休ませたいから、急きょ行ってくれ」
となれば話は違います。
まだ一軍での経験が少ない古市にとって、それに対応するだけでも大きな負担になるでしょう。
そこで頼りになるのが戸柱です。
「今日行ってくれ」に対応できるのが戸柱
戸柱には、一軍で長く捕手を務めてきた経験があります。
現在のDeNA投手陣についてもよく知っています。
だからこそ、
「今日は松尾を休ませよう」
「急きょスタメンを変更しよう」
というときに、すぐスタメンマスクを任せやすい。
これは経験の少ない捕手には、なかなか簡単に任せられない仕事です。
言い換えれば、戸柱は単なる「松尾の代わり」ではありません。
松尾と古市という若い捕手2人だけでは埋めにくい部分を引き受けることで、捕手運用全体を安定させる役割を担っています。
松尾には無理をさせない。
古市には準備する時間を与える。
その間を戸柱が埋める。
ここに、経験豊富な捕手を一軍に置いておく大きな意味があるのではないでしょうか。
古市を育てたいからこそ、急に背負わせすぎない
特に古市については、現在見せている打撃の良さも大切にしたいところです。
若い捕手に一軍でスタメンマスクを任せれば、覚えなければならないことは一気に増えます。
各投手の特徴を把握する。
相手打者について準備する。
配球を考える。
試合中には投手の状態にも気を配る。
そこへ自分自身の準備まで加わります。
もし突然、
「今日行ってくれ」
「明日からしばらく任せる」
となれば、捕手としての仕事をこなすだけで手いっぱいになってしまう可能性があります。
そうなれば、現在の古市の長所である打撃にまで影響が出てしまうかもしれません。
もちろん、将来的には突然のスタメンにも対応し、様々な投手を受けながら自分の打撃も維持できる捕手になってほしい。
ただ、それを今すぐ求めなければいけないわけではありません。
まずは、
「この日はこの投手と組ませる」
とある程度事前に決めておく。
その試合に向けてしっかり準備させ、一軍での経験を積ませる。
そこでできることが増えてきたら、少しずつ任せる範囲を広げていけばいい。
そういう育て方も十分に考えられるでしょう。
ここまで考えると、古市を育てるために必要なのは、単純にスタメンの数を増やすことではなく、「どういう形で経験を積ませるか」なのだと思います。
そしてDeNAには、まさにそうやって段階を踏みながら一番手捕手へ成長した選手がいます。
山本祐大です。
山本も最初から毎日のようにすべての投手を任されたわけではありません。
東克樹とのバッテリーを軸に信頼を積み重ね、そこから徐々に任される範囲を広げていきました。
では、その成長過程から現在の松尾・古市・戸柱の3捕手運用をどう考えればいいのでしょうか。
ここからは、山本の育成過程も振り返りながら、「若手捕手を育てるとはどういうことなのか」をもう少し深く考えていきます。